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透明フェロモン(15)

 ベッドに寝転んで天井を見上げながらぼっとしていたら、ビールを飲みながら眺めた海の色を思い出した。今日はカノンさんがいない。私に念入りに化粧を施すカノンさんはいない、と心の中で繰り返した。
 その時ふと浮かんだのだった。鏡台の隅に置いてある香水。ミチヒロさんが、何年も前にカノンさんに渡したというエメラルドグリーンの香水。
 私は次の瞬間、起き上がり、そっと自分の部屋を出た。足音が仕事部屋にいるミチヒロさんに聞えないように、忍び足で、カノンさんの部屋のドアをそっと開けた。小さく開いた隙間から、体を滑り込ませると、部屋の奥の窓際に、カノンさんの鏡台がいつものようにそこに在った。いつも私がカノンさんに化粧をしてもらう鏡台が、今日は、どこか違って、見慣れないもののように見えた。私は片側の壁にあるクローゼットを見た。クローゼットの中には整然と服がつるされているのを以前見たことがあった。私の買ったことのないような、色とりどりの服・・・。
カノンさんの部屋の中で、特に目新しいものはなかったのだが、一人で入るカノンさんの部屋はどこか秘密めいていて、初めて入る部屋のようだった。
 私は鏡台に歩み寄り、そっと手を伸ばした。香水の小瓶を取って、そっとキャップを取ると、澄んだ香が立ち上った。ほんの少し手首にとって、匂いを嗅いだ。ウッドデッキで二つの影を見たあの夜と同じ香だった。またキャップを閉め、もとあった位置に戻す。誰も触っていないということをアピールするように、角度まできっちり合わせた。
 窓から差し込む午後の日差しは、少し柔らかくなっていた。
 私はクローゼットの扉を開け、整然と吊り下げられている服を眺めた。クローゼットの奥のほうには、私が今まで買ったこともないようなセクシーなイブニングドレスが何着かあった。
 私は、その場で身にまとっていたスウェットを脱ぎ、クローゼットの奥に手を入れて黒のイブニングドレスを手に取った。細い肩紐が2本。背中は大きく開いていた。着方が分からず背中から足を入れて引き上げると、ヒップで引っかかった。悪戦苦闘の末、ようやく身につけると、鏡台の前に進み姿を映した。次に、大きく開いた背中を見ようと鏡台に背中を向けて、肩越しに鏡に映る背中を眺めた。ふと顔を戻すと、閉め忘れたドアの向こうに、ミチヒロさんが立っていた。
「・・・ミチヒロさん。」
「ご、ごめん、覗くつもりはなかったんだけど。ごそごそ音がしたから、何かと思って・・・。」
「私こそ、ごめんなさい・・・勝手に、カノンさんの部屋に入って・・・。」

そう言ってからはっとした。ミチヒロさんはいつから見ていたんだろう。

「それにしても・・・。とてもよく似あっているよ。カノンの若いときにそっくりだ。」

と言うと背の高いミチヒロさんは顔を赤くして俯いた。
留守をいいことに、勝手に部屋に忍び込み、妻の服を試着する女をとがめるのでもなく、穏やかにそういうミチヒロさんを私は直視できなかった。あの時、ミチヒロさんが一言きつく言ってくれたらよかったのだ。あるいは、見てみないふりをして、その場を立ち去ってくれたらよかったのだ。

 赤い顔で俯くミチヒロさんに近づき、抱きついた。
ミチヒロさんは戸惑っていた。でも、あまりにもしつこく抱きついて離れないので、仕方なく、私の頭をなで、
緩やかに抱き返した。
 私はイブニングドレスの肩紐を両肩からはずした。悪戦苦闘して着たのが嘘みたいに、ストンとドレスの方が体から離れ落ちた。
 下着だけになった私と彼はそのまま見つめ合っていた。夕闇が迫っていた。
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テーマ:連載小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2006/04/23(日) 23:22:35|
  2. 連載
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1
<<『小説の秘密をめぐる十二章』を読んではっとしたこと | ホーム | 透明フェロモン(14)>>

コメント

こんいちは!

この展開…次回が楽しみです!
  1. 2006/04/26(水) 14:52:09 |
  2. URL |
  3. KING MONKEY #-
  4. [ 編集]

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Neutron(ニュートロン)といいます。

お立ち寄りいただきありがとうございます。
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まずは、とりあえず書いてみよう!と思い始めたブログです。
まだまだ未熟ですが・・・。



少しずつですが書き溜めてます。
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