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隣の席の人(2)

入社してすぐは、隣の席できちっと仕事をこなすキクタさんの真剣な横顔を、私も見習わなければ、と思って見ていた。

焼き鳥屋に誘ってくれるようになってからは、笑うときの八重歯がいいな、とひそかに思っていた。
どんなに遅くまで飲んでも、遅刻なんて一度もしたことのない、キクタさんに、私は憧れていた。

憧れは憧れで終わるはずだった。

 夏も終わりかけのある日、焼き鳥屋からの帰り道、キクタさんは一度だけ私たちのルールを破ったことがある。
 その日も、「それじゃ、また明日。」と言って、お互い別々の方を向いたまではよかった。
 私が数メートル歩いた後、歩道のブロックを越えてタクシーを捕まえようと車道に出ようとしたとたん、

「前田さん!ちょっとまて!」

と言って、キクタさんがすごい形相で走りよってきたのだ。
何事か、と思い、振り向くと、酔ったキクタさんは乱暴に私を引き寄せて抱きしめたのだ。
 あまりに強かったので、私は、ウプッと変な声を出した。
キクタさんは慌てて引き離すと、今にも泣き出しそうな眼で私を見つめ、

「・・・死ぬなよ、・・・まだ早い、俺が守ってやるから。」

と言うと、さらに強く抱きしめたのだった。

「・・え?どういうことでしょうか?」

と息も絶え絶えにやっとのことで言うと

「・・・あ?」

とキクタさんは我に帰って聞き返したのだった。八重歯が見えた。

「あれ、自殺しようとしてるんじゃないのか?あ?・・・ごめん、ごめん。」
 キクタさんはぱっと私から離れると、ははは、少し飲みすぎたかな、と笑って「それじゃ、今度こそ、また明日ね。」と言うと、踵を返して帰っていった。
 
 その日、珍しく仕事で失敗したというキクタさんは、普段よりも少し早いピッチで日本酒を飲んでいたのを思い出した。私は、なんとなく安心して、また、少し残念だった。

 次の日も、その次の日も、あの時抱きしめられた感覚を忘れられなかった。

 それ以来、隣の席で仕事をするキクタさんの広い肩幅や、短い髪や、閉じた口の中にひっそりと生えている八重歯を想うようになった。

隣の席の人(3)
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2006/04/19(水) 23:33:18|
  2. 短編
  3. | トラックバック:0
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お立ち寄りいただきありがとうございます。
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少しずつですが書き溜めてます。
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