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Y先生のこと

 桜の季節が来るたびに、Y先生のことを思い出す。

 Y先生は、私が大学の学部3年次に、半導体工学という選択科目の講義を担当していた。
 もともと、選択した学生の半分は単位を落とすらしいと言う、いわくつきの講義であったのだが実際に講義を受けてみて理由がわかった。
 Y先生の語り口調が、余計に私たちの脳内を混乱させるのだ。
いわゆる「ベテラン」の教授にはよくある話なのだが。

 その頃の私は学校嫌いで、毎日、アルバイトばかりしていた。
 もちろん、半導体工学の単位は落とした。
 しかし、運がいいのか、気持ちを入れ換えて取り組んだ後期試験の一夜漬けが功を奏したのか分からないが、ぎりぎりのところで4年に進級することができた。

 そして、卒業研究のために配属された研究室が、Y先生の研究室だった。
もともと成績が悪かったので、2次配属といって、人気のない「残りもの」の中からしか選べず、仕方なしに選んだ研究室だったのだ。後から、まさにあの半導体工学のY先生の研究室か、と知って「失敗した」と思ったのだ。

というのも、Y先生の話が分かりにくい、ということに加えて、Y先生はその年で、定年退職だと聞いていたからだ。
単位が崖っぷちの私としては、もし、4年で卒業できずに留年することになったら、
 来年には指導教官が変わることになる。また、話がややこしくなり面倒そうでいやだな、と思っていたのだ。
と同時に、何とかして留年せずに卒業しよう、と決意したのだった。桜の季節だった。

 4年次になって、3年次までに取得しなければならない単位で取れていないものを、下の学年の子達と一緒に受けて取得しなければならなかったし、卒業研究はしなければならないし、進路のことも考えなければならなし、と、私の頭を悩ます種は尽きなかった。

 Y先生といえば、その語り口調は相変わらず私たちを混乱させたのだが、時に厳しく、また時に親身になって指導してくださった。
 いつも多忙で、学内に限らず、あちこち出張にも出かけていたが、暇を見つけては、研究室の学生一人一人と話し合いを持ち、卒業研究の進捗状況はもちろんだったが、Y先生にとってはどうでもいいようなことでも、私たちの話にいつでも真剣に耳を傾けてくれた。

 秋ぐらいになると、研究室の学生の間で、そんな多忙なY先生についてよく噂した。

最近顔色悪いけど、病気だろうか。
最近は忙しすぎてよく眠れないらしいよ。
睡眠薬を持ち歩いてるらしい。
昨日、午前1時ごろにも、Y先生の部屋に明かりが灯っていたし。
家には帰ってるのかな。
奥さんとうまく行ってないんじゃないの。
前にスーパーで見かけたことあるよ。
夫婦そろって仲良さそうだったけどな。


 それもこれも、Y先生が語り好きなのにもかかわらず、自分のことに関してはほとんどといっていいほど語らないことに起因していると思われた。


 そして、寒く厳しい冬が過ぎ、また春が来た。


 私は、奇跡的に他の研究室の学生と同じように、卒業することができた。
そして、Y先生も今年度で、大学を去るのだから、一緒に卒業ですね、などと笑いあった。

よかったね、心配してたけど、結果オーライだな。おめでとう。

とY先生はおっしゃった。


 最後に卒業のお祝いと、進学する人、就職する人、そして退職する人、みんなのお祝いに、お花見には早すぎるけど、お花見では遅すぎるから、つぼみの下で一杯やろうじゃないか。
という提案が学生の間に持ち上がった。


つぼみの下でのお花見の席で、Y先生がぽろりとこぼしたことを、今でも覚えている。


それは、先生は今後どうなさるのですか、と、学生の一人がたずねたときのことだった。


「そうですね・・・。
今まで走り続けて来ましたからね・・・。
退職してからは、
のんびりと・・・。
妻の看病を、
と思っておったのですが、
・・・・・・・。
叶いませんでしたのでね・・・。」


と言うと、Y先生は、今後は、隣県にある研究所で客員教授として声がかかっているのでそちらの方で微力ながらも若手研究員の育成に尽力したいと言った。

 Y先生がY先生のことを話すのを聞くのはそれが最初で最後だったと思う。・・・・。


 そして、昨年の桜の季節に、Y先生は他界された。
親族の方の話では、眠るように、という表現がぴったりだったそうだ。

いつも、桜の季節なんですね、先生。
奥さんに早く会いたかったんでしょう?
今まで、忙しすぎたのだから、今度は奥さんの側で、ゆっくり休んでください。

お葬式の帰り道、いやみなくらい咲きほこる桜の木々が少し滲んだ。



今年はY先生の一周忌だ。
お墓には何をもっていってあげようか。
満開の桜の枝でも供えてあげようか。





FC2トラックバックテーマ第36回 「お花見の思い出」
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テーマ:自作小説 - ジャンル:小説・文学

  1. 2006/04/07(金) 01:15:56|
  2. 短編
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:6
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コメント

こんにちは!

普通に泣きそうですけど俺…
  1. 2006/04/07(金) 02:38:38 |
  2. URL |
  3. KING MONKEY #-
  4. [ 編集]

KING MONKEY さんへ

読んでいただきありがとうございます。春にはこういう話もいいかな、と思いまして・・・。v-275
  1. 2006/04/07(金) 22:21:41 |
  2. URL |
  3. Neutron #-
  4. [ 編集]

「指先から奏でる日常」ののあです。
リンクありがとうございました。
うちの方も相互でリンクしたのでまた確認しておいてください。
同じ物書き同士で楽しめますように。
またゆるりと読みに来ますね。

今日はご挨拶だけでごめんなさい。
  1. 2006/04/07(金) 23:44:30 |
  2. URL |
  3. のあ #-
  4. [ 編集]

のあさんへ

相互リンクありがとうございます。
また読ませていただきます。v-379
  1. 2006/04/08(土) 10:33:13 |
  2. URL |
  3. Neutron #-
  4. [ 編集]

突然で済みませんが

●●読まなくてもいいです●●


 突然の訪問で済みません。FC2ブログランキングの小説部門を順繰りに眺めてやって来ました。

 今作を読みましたので、忌憚なく感想と批評をと。
------------------------

 「文章」については、出来るだけ丁寧に記述しようという気負いが感じられますが、それ故に物語に不必要だと思う箇所が多い。主人公の大学生活云々、学校が嫌いだなどは、そのエピソードにY先生が関わってこないのならば、ばっさり削っても良いと思います。

 冒頭でY先生の独特な口調を「ベテラン教授」特有のモノという抽象的な表現に済ませていますが、タイトルでもあるY先生についての具体的な表現が欲しいと思いました。どんな口調であるのか、と膨らませていけば、次のパラグラフは主人公の能書きではなくY先生についての段落に落ち着く、一種必然の流れが出来てくると思います。
 主人公について書きたいのか、Y先生について書きたいのか、言葉を正せば、読者に主人公の事を知って欲しいのか、Y先生の事を知って欲しいのか、その部分でもう一度推敲しなおすと良いと思います。
 慣れてくれば、主人公の事を書きながらも、主人公の血肉として昇華されたY先生の描写が出来るようになり、物語の整合性がグッと上がると思います。

 この物語で致命的なのは、どうして主人公がY先生を想うのか、そこにドラマを感じない所ではないでしょうか。
 ラストが出来合の展開に落ち着いてしまっているのは、主人公とY先生の繋がりの独自性がないからだと思います。

 書くべき所はどこか、と真剣に悩めば、物語に準じた文章が生まれます。
 ミステリの文章とは別で、青春系の物語に似合った文章とは、そういったモノだと思います。
※批評とは言ったものの思想論になってしまい済みません。


 なにぶん厳しい内容です。気分を害されたならば、コメントごと削除下さい。その場合には、二度と訪れませんので。

 ただしも、熱心に切磋琢磨なさる方への糧になればとの思いで文章を綴らせてもらいました事を、言い訳にでも聞いて下さると有り難いです。

 これからの創作活動、陰ながら応援しております。

                             by Raa
  1. 2006/04/26(水) 22:11:16 |
  2. URL |
  3. Raa #-
  4. [ 編集]

Raaさんへ

貴重なご意見、もっともだなぁとも思いながら読ませていただきました。
確かに、主人公とY先生の独自な関係を明白にしていない点、
読者に何を伝えたいかが浅い点、ご指摘のとおりです。

今後、これを踏まえて、よりステップアップしていきたいとおもっています。

今後とも、歯に衣着せぬコメントの程(笑)よろしくお願いします。
大歓迎です。


  1. 2006/04/28(金) 18:13:43 |
  2. URL |
  3. Neutron #-
  4. [ 編集]

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Neutron(ニュートロン)といいます。

お立ち寄りいただきありがとうございます。
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自分の考えていることや考え方が
皆さんに届いて、共感していただいたり、
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と思っています。
まずは、とりあえず書いてみよう!と思い始めたブログです。
まだまだ未熟ですが・・・。



少しずつですが書き溜めてます。
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お題に沿って、65文字以内で場面を描写する練習をしています。悪戦苦闘中です。
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